Q.質問 主穀と施設野菜農家として50年になります。長男は会社勤めのため孫夫婦が青色事業専従者として従事しています。近い将来、二人を私の養子にして農業経営を移譲するつもりです。養子縁組の有無によって農業経営に何か影響がありますか。贈与税や相続税の負担はどうなりますか。 A.回答 ・経営移譲と税金 祖父から孫へ作物の栽培技術を伝授し、経営を移譲するということは、家を守り家業を確かなものにするための必須要件です。経営権だけでなく農地や施設の権利の移転がともなうだけに、祖父と孫の間に贈与関係が生ずることがあります。もっとも使用貸借(ただで物を借りること)であれば祖父が支払う固定資産税・土地改良費・水利費などを負担するだけで済みますが、祖父の相続において農業用財産が孫のものになる保証はありません。 ・祖父の相続で想定されること 相続が始まると、祖父の財産は全て相続人の共有になりますから遺言があればその内容にしたがい、遺言がない場合には分割協議によって相続人のみが取得します。孫夫婦は当然には相続人になれないので、祖父の遺言か養子縁組によって相続人にならなければ、必要な財産を確保することができず農業を継続することは困難です。 ・孫に遺言を書くと 養子縁組をしないで「孫○○に農地と農業用の施設を遺贈する」と遺言した場合、相続人でない孫への農地の遺贈は特定遺贈とされ、この部分は無効になります。他の財産の遺贈を受けられたとしても、遺留分がないので相続人から侵害額の請求を受けて遺言の効果は半減してしまうのです。 ・孫を養子にすると 祖父と孫が養子縁組をすると、孫は祖父の嫡出子たる相続人になりますから農地の遺贈は有効です。縁組後は相続を待たずして農地の生前一括贈与を受け、贈与税の納税猶予の特例を受けることができます。現に耕作しているすべての農地の所有権や利用権、耕作権が孫のものになり、納付すべき贈与税は贈与者または受贈者が死亡するまで、猶予されるわけです。さらに、贈与を受けた年の1月1日における孫の年齢が20才以上、祖父が60才以上であれば、相続時精算課税制度(財産2500万円まで贈与税は無税で、これを超える部分に対して20%の贈与税が課税されるしくみ)によって農地や農業施設等の贈与を受けることができます。 ・生前贈与した農地には相続税が 贈与者が死亡した場合、生前一括贈与を受けた農地は贈与者の相続開始時の価額で、相続時精算課税制度によって贈与された農地は贈与時の価額を相続財産に加算して相続税を計算し、納付した贈与税額を精算(控除)します。農地の価額が贈与時より値上りが想定される場合は相続時精算課税制度が、値下りが見込まれる場合は生前一括贈与を選択した方が得策ということになります。なお、生前一括贈与を受け相続財産に加算された農地については、祖父の相続税の申告において、相続税の納税猶予の特例を受けることができます。 ・養子縁組を解除した場合の贈与の特例 贈与税の納税猶予の特例を受けた農地の受贈者が養子縁組の解除により贈与者の推定相続人にならなくなった場合は、贈与税の納税猶予の全部が打ち切られ、本来の贈与税額と利子税を合わせて納付することになります。なお、相続時精算課税の適用を受けた受贈者が養子縁組を解除して推定相続人でなくなった場合でも、祖父から贈与により取得した財産については、引き続き相続時精算課税を適用することになりますので留意して下さい。 ・事業用資産の贈与税の納税猶予 規模拡大に伴って、投資額が大きくなってきたので、使用貸借から固有財産へ経営基盤の拡充が求められることになりました。贈与税における農地の生前贈与とほぼ同じしくみで、農業用の宅地や建物、農業用機械を後継者へ生前贈与することが可能になりました。 ・養子縁組とは 養子は、養親と養子が縁組をする意思の合意によって成立します。普通養子は養親より年下であればよく、何人の養子になってもよく、養子の数にも制限はありません。養親は養子を相続し、養子は養親を相続することになります。15才未満の未成年を養子にする場合はその法定代理人の承諾が必要ですが、15才以上の未成年を養子にする場合は未成年の意思によります。 ・養子縁組のメリット 相続税の総額を計算する場合の、基礎控除額、法定相続分、死亡共済金・死亡退職金の非課税金額は養子が加わることによって増え相続税を軽減することできます。ただし、養子のお孫さんは2親等ですから本人の相続税額は2割加算になります。
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