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  • 執筆者の写真税の西田

遺言があるとどんな問題が想定されますか



Q 質問

 父親から後継者に請われて10年、父を助け家業に勤しんできました。このほど父は遺言書を作成したそうです。「すべての財産を私に相続させる」とした自筆証書とのことでした。安心してよいのか、何か大きなお荷物を背負うことになるのか、家のために何をすべきかなどを案じています。相続人は弟妹と3人です。遺言があることによって将来どんな問題が想定されますか。申告納税に影響がありますか。


A 回答

・遺言書は遺志を貫く

 少子高齢社会だけに相続や相続対策への誘いが増えてきました。遺言、養子縁組、生前贈与、経営移譲、法人成り、家族信託、共済保険は相続の七つ道具としてビジネス用語になるほどです。本来は家業と必要な財産の承継、生活の立て直しを裏打ちする手段であって、結果としての節税対策なのです。なかでも遺言は「円満な遺産相続のために」とか、「跡取りに全部相続させる」ことに腐心したものが多く、もめごとの原因になることがあります。70年の親子の歴史を精算する我が家の相続は、我が家の家風にしたがい、我が家の考えと方針を貫くことが何より大切なことです。


・念のために書く遺言

 被相続人がやってきたことを後継者が相い続けるのが相続ですから、仕事や生活上の権利と義務は明確です。被相続人の財産や債務は相続が始まると相続人全員の共有になりますから、長子といえども期待どおりに遺産を相続できる保証はなく、他の相続人の思惑次第なのです。共有財産を他の相続人より多く取得させるためには遺言を書くか、遺産分割協議において全員の合意を得なければなりません。家業や祭祀を主宰する者に必要な財産を継がせ、被相続人が想い描いてきた構想を正しく伝えるには遺言書が必要です。


・相続税も円満な相続が前提

 相続人は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税を申告して納税しなければなりません。その間に、共有状態をとき遺産を各相続人の固有のものとするための分割協議を開く必要があります。分割協議が整うと相続税の計算上一定面積の事業用・居住用の宅地の評価減、配偶者の相続税額の軽減、農地の相続税の納税猶予、延納・物納申請などの特例を受けることができますが、相続税の物納や納税猶予は申告期限後に分割協議が整ったとしても受けられないからです。さらに、期限内に遺産分割協議が整わないと、各相続人が法定相続割合で財産を取得したものとして、特例なしの相続税を申告納税しなければなりません。


・遺言の効用と限界

 遺言書が一定の用法にしたがって正しく作成されていれば、分割協議を経なくても遺産を相続または遺贈によって取得したものとして、相続税の特例を受けることができます。遺言の内容が特定の相続人に偏ったり、遺言者が公言してきた内容と相違したりしていると、遺言への不信が募り遺留分を侵害された相続人から侵害額の請求をされかねません。親子の相続における遺留分は法定相続分の2分の1です。各相続人の遺留分は各6分の1になります。相続財産が3億円であれば5千万円の遺留分を現金で用意しなければなりません。あなたが遺産の全部を取得する場合は、2人の相続人に合わせて1億円の遺留分を支払う必要があります。


・遺言では全部をもらえない

 土地を換金して1億円の遺留分を用意するには、譲渡費用と譲渡税がかかりますから1億2,300万円の土地を譲渡しなければなりません。さらに、この相続財産には総額で5,460万円の相続税が課税されますから、2億円の財産を相続する長男は3,640万円、遺留分を請求する弟妹には各910万円の納税が予定されます。長男は全ての財産を取得するものの、取得できる相続財産の額は1億6,360万円で全体の54.5%になってしまいます。それでも、遺言がなければ遺産の3分の1になるところです。


・生前に今何をすべきか

 全ての財産を取得させるとした遺言があっても、遺留分を取り返されてしまうと家業と祭祀を承継することが難しいかもしれません。生前贈与や遺言に限界があるとすれば、遺留分を侵害しない範囲で後継者の固有の財産を造成できるしくみを講ずる必要があります。たとえば、①経営移譲を早めに進める、②事業専従者給与や役員報酬を後継者に支給していく、③納税猶予制度や相続時精算課税制度によって収益財産を生前に贈与していく、④後継者に出資させて事業を法人成りする、⑤法人へ事業用資産を移していく、⑥後継者に父の死亡共済金や死亡退職金を支給できる契約や規定を準備する、などの対策を講じることです。仕事と生活の改善をはかりながら節税効果も得られます。


・円満な相続の合意

 相続関係者の高齢化により相続人間での所得格差、資産格差が進んでいます。親の相続が単なる遺産分けにならないよう正しい相続教育が必要です。とくに家を守り家業を承継するための親子の生前協議は必須です。被相続人の家や相続人への思いを伝え、遺言を補完することです。この相続での各相続人の役割、そのために必要なものは何か、いつどんな方法で財産を移していくのか、本番に向けてどんな準備をすべきか、など親子の話し合いは尽きないはずです。


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