Q 質問
令和3年分の農業青色申告を終えて、所得の計算に誤りがないかを見直しています。家業としての農業経営の状況は一進一退が続いており、恒常的な赤経営に陥らないか心配です。どこが良くてどこが悪いのかを調べて対処しようと思っております。確定申告書からどんな経営情報が得られますか。来年に向けて見直すべきことがありますか。次世代対策はどうすべきでしょうか。
A 回答
農業は偉大な産業
長年にわたって安心で安全な食料を作り続けてきた農家が、親の相続を機に廃業する意向を示し始めています。不採算もさることながら、子や孫達が親元を離れて生活するようになってきたこと、家族の高齢化が進んでいること、農業と会社勤めを両立できないことが動機のようです。地球の片隅で起きた小競り合いで私たちの食卓の様子が変わってくるように、異常気象や地殻の変動による食料危機はいつ起きてもおかしくない。いざというときに備えて、耕地の3割でも2割でも自作してほしいところです。
赤字経営が続くと
農産物の相場は、生産原価をよそに需給関係と社会生活の影響を受けやすく、公共料金の性格が強くなっています。そのことは農業所得の申告書にも反映されているようです。赤字が目立ってきました。税法上の特例を適用した結果欠損になる場合もありますから一概に言えませんが、費用が収益を上回ったことによるものです。その年の損失は他の経常所得と損益通算し、通算しきれない部分は純損失として3年間の繰越控除が認められていますが、なお控除できない部分は事業への持ち出しになります。特例を受ける前で赤字になるのは、主に市街化区域内の農地に対する固定資産税・都市計画税の負担と農業機械等の減価償却費であり決算書から読み取ることができます。減価償却費を計上すると赤字になるときは元手を回収できない危険な状態です。収穫量が伸びず単価が上がらないうえに、生産資材や農業機械が高いことも影響しているようです。しかしながら、農業は「業」ですから、農地を耕して作物を生産し利益を上げなければ家業として成り立たない。赤字が続くと納税は無くとも機械等への投下資金を回収できず、債務が増えていくことになります。生産原価とくに施設面の生産性を見直して、この悪循環を断ち切らなければなりません。
生活設計を支える家業に
入りを図って出を制す考えのもとに、一年間の収支計画を立てると収支は償うことができるし、作り方と売り方も見えてきます。販売高は単価×数量で示されるとおり収益を高めるには単価を上げるか収穫量を増やすしかない。庭先販売や農協の直売所への出荷など、消費者に限りなく近づき単価を上げるのも一法です。限られた条件の中で「おいしいもの」を作るための品種の選択や栽培の秘伝が求められています。子どもの成長にともなって収益を高めていく必要がありますが、事業には経済規模というものがあって、このままどこまでも成長し続けることはできません。農業は小さな収益の積み上げですから畑にあるものはどれも商品、小さな出荷も惜しまない姿勢が必要です。作物を組み合わせた出荷計画と生産計画を立てたら実践し見直しをする。この繰り返しで確かな利益は実現するものです。
納税すると残るものがある
同じ面積の調整農地で、同じ作物を生産し、同じ販売高を上げたA農家とB農家がありました。税制上の特例を適用する前の所得が、Aさんは200万円。一方Bさんは200万円の欠損でした。原因は生産原価のかけ方にありました。Aさんは所得税と住民税を30万円納付しても、なお170万円の資金が残りましたが、Bさんは元手が200万円減ってしまいました。所得が出ると納税が必要ですが処分できる資金が増えるのです。資金に余裕が出てくると経営資金の好循環が始まり、次なる効率経営への投資も可能になります。農業経営を移譲しようとする後継者には子育てできる給与を支払い生活を安定させることです。できれば法人成りして、雇用と後継者の受け皿を作っておくと承継しやすくなるでしょう。
青色専従者給与を考える
農業は家族労働が前提になっているだけに、家族の労働を正しく評価するために事業主の所得の一部を従事者への給与として支給するしくみがあります。事業主と生計を一にし、農業へ専ら従事する家族へ支給する青色事業専従者給与は、特例として農業所得の必要経費になります。従事した仕事の内容にふさわしい給与を支給することで、事業主の所得を家族に分散することができます。相続の際に事業主の遺産の造成に著しく寄与したとして寄与分を請求してもなかなか認められないだけに、相続対策としても有効な手段になりそうです。配偶者控除を取るか、専従者給与にするか、給与をいくらにするかなどの届出書を速やかに提出して、この制度を積極的に活用することにします。
青色申告特別控除
青色決算書(損益計算書)によって生産原価の額、販売手数料等の流通費、人件費の総額、施設の保有コストなどを把握し振り返ることができます。さらに複式簿記(損益計算と財産計算を同時に仕訳記帳する帳簿方式のこと)による貸借対照表を申告書に添付することによって、10万円だった青色申告特別控除は65万円になります。損益計算の結果としての財産と債務の因果関係を一覧することができます。個人事業はどんぶり勘定になりやすく、事業用資産の活用状況、資金繰りの善し悪し、利益の累積状況などを見失ってしまうことがあります。とくに、投資額の回収計算としての減価償却は耐用年数を経過したときに金融資産として回収されるはずの投下資金が、生活費に流用されてしまうのです。貸借対照表は片手落ちになりがちな事業上の債権債務や投下資本の把握管理に欠かせない手段なのです。
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