(前回の続き)
Q 質問
子が農業を継がないため、父の遺産は全て高齢の母が相続することになりました。田畑(2ヘクタール)は今年から休耕にしました。父母の相続を通して不動産の取得を希望する子はおりません。農地は人に貸すか誰かに贈与するつもりです。将来は譲渡するか市へ寄付することも考えています。土地は当分の間父の名義のまま相続登記をしないつもりです。母の相続後は居宅が空き家になる予定です。このような相続で何か問題になることはありますか。ほかに良い解決策はありますか。
A 回答
所有者不明土地の増加
不動産の登記簿では所有者を判明できないか判明してもその所在が分からない所有者不明土地が国土面積の24%を占めることが分かりました。その大部分が相続登記の未了によるもので、代々未登記が続くことから相続人の数がねずみ算式に増え、誰が所有者なのかわからなくなってしまっているのです。
先送りできない相続登記
そこで、任意であった相続登記の申請が2024(令和6)年4月1日から義務づけられました。相続によって土地建物を取得した者は所有権の移転登記が必要です。お母様が取得する不動産は、お父様の名義のままにしておくことはできません。相続取得を知った日から3年以内の登記が求められているからです。
所有者の所在を明らかに
相続によって被相続人の土地や建物を承継すべき相続人は、当該不動産を法定相続分で登記しておくか、相続が開始した旨と相続人になったことを単独で申告登記することで登記義務を果たすことができます。登記名義人が住所を変更した場合は、変更した日から2年以内に変更登記をすることも義務付けられました。
始め登記ありきではない
義務だからといって相続登記を優先することではありません。まず、相続の方針をじっくり考えて、各相続人にとって最も相応しい財産を取得させるための分割案を協議します。これに伴う相続税額を試算して納税計画を立てます。相続人の総意のもとで遺産分割協議書を作成して10ヶ月以内の相続税の申告と登記の申請をすることにします。
登録免許税の軽減
相続登記を申請するには、固定資産税評価額をもとにした登録免許税がかかります。その価額が200万円であれば、1,000分の4に相当する8千円を収入印紙で納付します。相続登記の促進を図るために、2023(令和5)年から市街化区域内の土地であっても固定資産税評価額が100万円以下の土地については登録免許税が免除されることになりました。
不明土地を国庫帰属へ
相続人が相続又は遺贈によって土地の所有権を取得するも、利用する当てがなく所有しづらい土地については、法務大臣(法務局)による一定の要件審査を受けて承認されると、所定の負担金(管理費用)を納付して国庫へ帰属させることができます。国庫へ帰属した土地は普通財産として、農地は農林水産大臣が、宅地は財務大臣が管理処分することになります。寄付や物納より条件は厳しくなります。
所有者不明土地の固定資産税
市町村が必要な探索をしても土地の所有者の存在が不明である場合は、その使用者を所有者とみなして固定資産税課税台帳に登録し、その者に固定資産税を課税することになりました。台帳登録に当たってはその旨をその使用者に通知することになっています。
先代名義の土地建物の相続税
相続財産としての先代名義の土地建物のうち被相続人の共有持分に相当する価額が相続財産になります。後日、遺産分割協議が整ったところで修正申告または更正の請求をして精算することになります。
居住用土地の譲渡
お母様が居住する建物は空き家が想定されるところ、その敷地を相続開始から3年以内に譲渡した場合は、一定の要件のもとに3,000万円の特別控除の特例の適用を受けることができます。①譲渡するまでの間に誰も使用していないこと ②1981(昭和56)年以前に建築された建物は耐震改修をするか譲渡する前に取り壊していること ③譲渡代金が1億円以下であること ④相続税の取得費加算との選択適用であることなどの要件を満たす必要があります。
農家の相続の課題
義務感で支えられてきた農業は、50代になる子ども達の生活設計を変えるほどの魅力を持ち合わせていない。農業の位置づけとともに家業の見直しが始まっています。農地の相続取得はもとより家業を継ぐ相続人のいない農家が増えてきました。一旦は配偶者が引き受けるも農地は休耕田から耕作放棄地になることが懸念されています。相続に関心がなければ分割協議は開かれず、遺言書を作成しても放棄されることも考えられます。登記も一代とばしになり所有者不明の土地になりかねない。次の相続のことを家族で話し合うことが必要です。
(『広報ほくさい』・『JA埼玉みずほ』2023年6月号掲載)
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