• 税の西田

これからの相続と相続税を考える

Q 質問

 私たち長男夫婦は30年間、青色専従者として父の農業経営を支えてきました。父は昨年の暮れに、その経営を私に移譲してくれました。同時に、父はすべての財産を包括して長男に相続させる旨を遺言したそうです。相続人は私と二男と長女の3人ですが、改めて親子で相続の話をしたことがありません。父の相続では遺言のとおり、私がほとんどの財産を相続し家業と祭祀を守っていくつもりです。これから遺産の相続と相続税の納税について何か準備しておくことがありますか。


A 回答

・相続の基本的なしくみ

 相続は人の死亡によって開始し、相続人は被相続人に属した一切の権利義務(財産と債務)を承継することになります。相続人は、熟慮期間(3ヶ月)内であれば、いつでも相続を放棄することができます。相続人が複数の場合の遺産は法定相続人がこれを共有します。共有状態を解くために遺産分割協議を経て、不動産の登記や預貯金の名義を相続人へ書き換えをします。ところで、被相続人は生前において各相続人に何を相続させたいかを自由に遺言することができます。受遺者はこれを放棄することもできます。放棄された財産は相続人全員の分割協議によって取得者を決めなければなりません。お父様が遺言によって長男に全ての財産を遺贈した場合、長男は二男や長女から遺留分(各6分の1)を現金で支払うよう請求されることが想定されます。


・相続争いの原因は足元にある

 新しい民法(均分相続)になって74年経ちますが、日本の社会では相変わらず家を中心に物事が進められています。全ての財産を相続するつもりの後継者と法定相続分を主張する相続人の争いが跡を絶ちません。被相続人の権利と義務を誰が承継すべきか、跡取りによる親の療養看護や家業への寄与を誰がどのように評価するのか。親としての相続人への思いや期待を正しく伝えていないことも原因の一つです。裁判所へ託すほど難しいことではないが、調停や裁判所への申立てが増えています。相続税も「10ヶ月あれば、遺産を調査して分割協議が整うはず」として、期限までに遺産が未分割でも申告納税を猶予しないのです。


・遺言の効用

 相続税の申告期限内に遺産分割が整わない場合は、各相続人が法定相続分で財産を取得したものとして、相続税を申告納税しなければなりません。未分割で遺言もなければ、各相続人は相続又は遺贈によって遺産を取得していないので、「配偶者の税額軽減」「農地の相続税の納税猶予」「小規模宅地の評価の特例」「相続税の物納申請」などの特例を受けられません。遺言書にそって、遺産を取得し債務を承継できれば節税を図ることも可能なのです。


・遺言は全てではない

 遺言は養子縁組と並んで相続対策の手段です。遺言は、跡取りに全てを相続させるもの、家産を孫に託すもの、各相続人へ平等に与えるものなど事情を反映させることができます。中でも、1人の相続人へ「包括して相続させる」遺言は、他の相続人の遺留分を侵害することになります。相続人間の話し合いを省略して、いきなり執行(登記や名義書換手続き)すると、法律どおり遺留分を請求されてしまうものです。しかも、従来は遺留分を土地で返還できたのですが、民法の改正によって「現金」で精算することになりました。遺留分を請求された受遺者は、現金で支払うために遺留分のおよそ1.3倍(3.3%の仲介手数料と18.73%の譲渡税がかかるため)の土地を処分しなければなりません。


・遺言で家業を守れるか

 相続人が3人であれば、跡取りといえども法定相続分は3分の1。長男に全ての財産を相続させるとしても、二男と長女の遺留分は合わせて3分の1。2人に遺留分を請求されると、長男には3分の2しか残らないのです。遺留分を現金で支払うと、長男が取得できる財産は3分の2(66.7%)から56.7%に減ってしまい、全ての財産を取得することにはならないのです。そこで、必要な遺産を確保するための生前対策が必要なのです。


・家産を守るための生前対策

 生前に土地を譲渡して現金化しておく。遺留分に相当する遺産を二男と長女に生前に贈与する。二男と長女の遺留分を満たす財産を遺言で遺贈する。父と長男の妻が養子縁組をして後継相続人を増やす。家業を法人成りして事業に必要な財産を法人へ集約する。10年計画で長男の農業経営の基盤を父子で造成する。等々、家業と家を守ることは大変なことです。家団内で生前協議を開いて対策と工夫を重ねる必要があります。

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